コツコツ貯めたお金で買ったダイハツのミライース
私が大学を卒業し、晴れて社会人となったのは春のことでした。
憧れの都心部にある企業に就職が決まり、新生活に胸を膨らませていたものです。
ただ、実家から都心までは距離があり、通勤は電車を利用することになりました。
問題は最寄り駅までの距離です。
実家から歩くと30分以上かかる距離で、朝の忙しい時間帯にこの時間をかけるのは非効率だと感じました。
初めての愛車購入までの道のり
「駅まで車で行ければ、通勤時間を大幅に短縮できるのに」
そう考えた私ですが、社会人1年目の私には車を購入できるほどの貯金はありませんでした。
新入社員の給料は決して高くなく、都心での生活費も侮れません。
しかし、通勤の効率化は優先事項だったため、車の購入に向けて具体的な計画を立てることにしました。
月に8万円ずつ貯金する計画を立てたのです。
初任給の半分以上を貯金に回すというのは、正直言って容易なことではありませんでした。
友人たちは週末になると飲みに出かけたり、旅行に行ったりと、青春を謳歌していました。
私も誘いを受けることがありましたが、車購入という目標があったため、多くの誘いを断らざるを得ませんでした。
休日のアルバイトもしながら、少しでも早く目標金額に到達しようと努力しました。
お弁当を自作して持参したり、不要な出費を徹底的に見直したりと、節約生活は続きました。
時には心が折れそうになることもありましたが、将来の通勤が楽になることを想像して踏ん張りました。
そして社会人2年目に入った頃、知り合いのディーラースタッフから朗報がありました。
「状態の良い中古のミライースがあるよ」と連絡をもらったのです。
価格は100万円。
ちょうど私の貯金額と同じでした。
これは運命だと思い、即決で購入を決意しました。
ダイハツのミライースは、初心者ドライバーの私にとって理想的な選択でした。
燃費が良く、維持費も安いコンパクトカーは、限られた予算で車を所有する若者にとって最適だったのです。
コンパクトカーとの生活が始まる
車の納車日、私は心を弾ませながらディーラーに向かいました。
そこに輝いていたのは、白いボディのミライース。
小さいながらも精悍な姿は、まさに私の理想そのものでした。
鍵を手渡されたときの高揚感は今でも忘れられません。
「これが…私の初めての車…」
感動に震えながら、運転席に座りました。
ハンドルを握る感触、シートの座り心地、すべてが新鮮で特別なものに感じられました。
その日から私の生活は一変しました。
朝の通勤時間は大幅に短縮され、時間に余裕を持って家を出られるようになりました。
週末には家族や友人、恋人を乗せて、あてもなくドライブに出かけることも増えました。
行ったことのない場所や、電車では訪れにくかった自然豊かなスポットにも足を運ぶようになり、生活の幅が広がったのです。
特に印象に残っているのは、父と一緒に行った初めての洗車です。
泡立つシャンプーで車体を優しく洗い、タイヤをピカピカに磨き上げる作業は、想像以上に楽しいものでした。
洗い終わった愛車が太陽の下で輝く姿を見て、所有する喜びを改めて感じました。
「よくぞここまで貯金したな」と父に言われた言葉は、努力が報われた証でもありました。
運転が不慣れな私にとって、ミライースのコンパクトなサイズ感は本当に助かりました。
狭い道や混雑した駐車場でも、小回りが利くので難なく対応できました。
また、燃費の良さも魅力で、給油の頻度も少なくて済んだのは家計にとって大きな助けになりました。
事故から学んだ大切な教訓
しかし、車を所有する喜びだけでなく、責任の重さを痛感する出来事も起こりました。
ある夜、友人を家まで送っていた帰り道のことです。
住宅街の狭い道を走行していたとき、対向車とすれ違う場面がありました。
道幅が狭く、よけようとしたはずみで、ガードレールに接触してしまったのです。
「ガコン!」
その音は今でも耳に残っています。
幸い、対向車や友人、そして私自身にケガはありませんでしたが、大切な愛車に傷がついてしまいました。
交通事故を起こしたという事実以上に、懸命に貯金して手に入れた愛車が傷ついたことに、その場で涙が溢れました。
翌朝、冷静に車体を確認すると、後部座席の右側がへこんでいました。
購入からわずか半年足らずで「事故車」になってしまった現実に、胸が痛みました。
この事故を通じて私は重要なことを学びました。
コンパクトカーだからといって、運転に慢心してはいけないということです。
むしろ、車のサイズに関わらず、常に慎重な運転が求められるのだと痛感しました。
事故後は運転に対する姿勢が変わりました。
安全確認をより慎重に行い、無理な運転は決してしないよう心がけるようになりました。
その結果、事故以降は大きなトラブルなく、約10年もの間、同じミライースに乗り続けることができました。
時が経ち、仕事の関係で引っ越すことになり、愛車と別れる日がやってきました。
手放す決断は非常に辛いものでしたが、10年という長い期間、私の生活を支えてくれたミライースには感謝しかありませんでした。
最後にキーを渡すとき、まるで自分の分身と別れるような寂しさで涙が止まりませんでした。
初めての給料で少しずつ貯金して手に入れた車、初めての洗車の喜び、友人や家族とのドライブの思い出、そして事故から学んだ教訓まで、すべての記憶が詰まった特別な存在でした。
今では新しい車に乗り換えましたが、初めての愛車であるミライースとの日々は、私の人生における大切な一章として心に刻まれています。
コツコツと貯金し、手に入れた愛車との思い出は、いつまでも色あせることはないでしょう。