勢いで買ってしまったホンダのプレリュード
自動車との出会いは人生の転機になることがあります。
私にとってのホンダ・プレリュードとの出会いは、計画していなかった衝動的な決断でした。
しかし、その瞬間の判断が、長年にわたる素晴らしい思い出を作ってくれることになるとは。
今でも鮮明に思い出される、私とプレリュードの特別な関係をお話しします。
一瞬で心を奪われたホンダのプレリュード
就職する前から、私には欲しいと思っていた車がありました。
当時、車雑誌で見た別のモデルに憧れていて、就職したらそれを買おうと決めていたのです。
しかし、運命とはわからないもの。
全く予期せぬ出会いが私を待っていました。
ある休日、特に目的もなく青山を歩いていた時のことです。
大きなホンダのショールームの前を通りかかりました。
何気なく店内を覗いてみると、そこには当時大ブームを巻き起こしていた「ホンダ・プレリュード」が鎮座していたのです。
白いボディカラーのプレリュードは、ショールームの照明を浴びて神々しいほどに輝いていました。
流れるようなフォルムと低く構えたスタイリッシュなデザインに、一瞬で心を奪われました。
それまで車に強いこだわりがあったわけではなかったのですが、この車を見た瞬間、言葉にできない魅力を感じたのです。
ショールームに足を踏み入れ、プレリュードの周りをゆっくりと回りながら、その美しいフォルムを眺めました。
特に印象的だったのは、未来的でありながらも上品さを兼ね備えたフロントデザイン。
当時としては革新的だったポップアップヘッドライトも、洗練された印象を与えていました。
そして内装に目をやると、そこにはさらなる驚きが待っていました。
高級感あふれるインテリアと、特にシートの質感が素晴らしかったのです。
座ってみると体にフィットする感覚があり、まるでスポーツカーのコックピットにいるような特別な気分になりました。
営業マンが近づいてきて、「試乗されますか?」と声をかけてくれました。
運転免許を取ったばかりで、自分にとって高級車の試乗は初めての経験。
少し緊張しながらも、「はい、お願いします」と答えていました。
エンジンをかけた瞬間、予想以上に静かなエンジン音に驚きました。
スポーティな外観からは想像できないほど上品な音色で、さらに魅力を感じました。
ゆっくりとアクセルを踏み込むと、スムーズな加速感。
馬力があるにもかかわらず、その力強さを上品に包み込むような乗り心地でした。
都内の道路を少し走らせてもらいましたが、ハンドリングの正確さとレスポンスの良さに感動しました。
私のような初心者ドライバーでも扱いやすく、それでいてスポーツカーとしての性能も感じられるバランスが絶妙だったのです。
試乗から戻った時には、もう心は決まっていました。
「絶対、絶対ほしい!」という気持ちで胸がいっぱいになり、いてもたってもいられませんでした。
理性的な判断よりも感情が先に立ち、試乗後すぐに購入契約の話に進んでいました。
初めて自分の稼いだお金で買う車。
本来なら慎重に検討するべきことかもしれませんが、あの瞬間の高揚感と直感を今でも後悔していません。
時には人生で大切な決断は、論理ではなく感情に従うべき時もあるのだと思います。
初めての女性オーナーになったかも?
契約手続きを進める中で、ホンダの担当者から意外な言葉をかけられました。
「男性の方が多く買われていて、もしかしたら当店初の女性プレリュードオーナーかもしれませんね」と。
当時は特に気にしていませんでしたが、プレリュードは若い男性向けのスポーティカーとして位置づけられていたようです。
女性オーナー、特に私のような20代前半の女性が単独で購入するケースは珍しかったのでしょう。
担当者の言葉には少し驚きましたが、それがかえって特別感を感じさせてくれました。
後になって友人から聞いたのですが、プレリュードは「ナンパ車」としても名を馳せていたとか。
そんなイメージがあるとは当時の私は全く知る由もなく、純粋にデザインと走行性能に惹かれて購入したのです。
この事実を知った時は少し照れくさい気持ちになりましたが、それも今となっては笑い話です。
納車の日は、人生で忘れられない日となりました。
ディーラーで最終確認を終え、キーを受け取った瞬間の喜びは言葉では表現できません。
ピカピカに磨かれた白いボディに太陽の光が反射して、まるで宝石のように輝いていました。
家族には「もっと実用的な車にすれば良かったのに」と言われ、友人からは「本当に一人で決めちゃったの?」と驚かれることもありました。
確かに実用性だけを考えれば、他にも選択肢はあったでしょう。
でも、車は単なる移動手段ではなく、自分の個性や生き方を表現するものでもあると思っています。
街中を走っていると、時々同じプレリュードに乗った男性ドライバーとすれ違うことがありました。
お互いに会釈を交わす瞬間があり、同じ車を愛する仲間として不思議な連帯感を感じたものです。
また、駐車場で車から降りる際に「素敵な車ですね」と声をかけられることも多く、その度に誇らしい気持ちになりました。
日本中を走り回って12万キロ以上
プレリュードは私の日常生活だけでなく、様々な冒険の相棒となりました。
週末のドライブは当たり前、時には一人で長距離ツーリングに出かけることもありました。
箱根や伊豆への日帰りドライブは特にお気に入りで、ワインディングロードでのハンドリングの良さを実感できる道でした。
友人を乗せて海へ行ったこと、初めての彼氏とのデートで使ったこと、仕事の移動で活躍してくれたこと…プレリュードとの思い出は数えきれません。
どんな時も信頼できる相棒として、私の青春時代を彩ってくれました。
メンテナンスにも気を配りました。
定期的な点検はもちろん、少しでも異変を感じたらすぐにディーラーに相談。
大切な相棒だからこそ、できる限り長く乗りたいという思いがありました。
そして結果的に、プレリュードは12万キロ以上も走ってくれました。
東京から北海道まで、東京から九州まで、日本中を走り回った距離です。
いろいろな人を乗せ、いろいろな景色を見せてくれました。
しかし、どんな車にも寿命があります。
徐々に修理の頻度が増え、部品の調達も難しくなってきた頃、ついに引退の時を迎えることになりました。
最後の日、ディーラーに車を引き取りに来てもらう時は、本当に別れがたい気持ちでいっぱいでした。
白いプレリュードが走り去っていく後ろ姿を見送りながら、あの日、青山のショールームで「絶対ほしい!」と思った瞬間を思い出しました。
確かに勢いで購入してしまったため、身内にも呆れられましたが、今思えば、あの衝動的な決断は間違っていなかったと思います。
遠い昔の話になりましたが、あの乗り心地と買った時の高揚感は絶対に忘れることができません。
プレリュードは単なる車ではなく、私の青春の象徴であり、人生の大切な一部となりました。
今では別の車に乗っていますが、たまに街中で古いモデルのプレリュードを見かけると、つい足を止めて見入ってしまいます。
そして心の中で「ありがとう」と、かつての相棒に感謝の言葉を送るのです。
勢いで買ってしまった決断が、こんなにも素晴らしい思い出をもたらしてくれるとは。
人生の中で、理屈抜きに心が動く瞬間を大切にしたいと、プレリュードは私に教えてくれました。